とても魅力的な絵と多くを語らない言葉。
オーストラリアの児童書新人イラストレーターに贈られるクライトン賞を受賞したマーク・マーティン(Mark Martin)の絵を存分に味わえる作品を紹介します。
『夢の川』〜夢の川を下る舟に乗り、くるくるかわる景色を満喫〜
『夢の川』
マーク・マーティン 作
海都 洋子 訳
六曜社
物語の語り手は、主人公の「わたし」。
扉を開くと、わたしの目の前には、左右に並んだ二つの窓があって、そこから見える景色が描かれています。
外界を見下ろすように広がるのは、いくつものビルや無機質な建物がぎっしりと建ち並ぶ街の景色です。
夕暮れ間近で明るさを失いはじめた空、地味な色にトーンダウンした街、一日の終わりを告げるようなオレンジ色の太陽が、遠くに小さくかすむしたビルの少し上にあります。
そんな景色の中を、緑のヘビのようにくねくねと蛇行を繰り返しながら流れる川が見えます。
左の奥から流れてきて右の奥の方へと続く川。
この川を一艘の船に乗って下って行くわたしの物語が始まります。
最初にやってきたのは大きな町。
ビルとビルの間を縫ってはしる立体交差の道路には、車がぎっしり。
その先の工場か建ち並ぶ街には、黒い煙を黙々と空に吹き出す煙突がたくさん。
私はそんな景色の中を一人で小舟にのって流れていくのです。
やがて田舎にやってきました。そこには畑や動物の姿も見えます。
舟の旅はゆっくりといろんな景色を楽しみながら続きます。
山をぬけ、ジャングルの森を通り、大海原に到着。
そして最後についたところは…
何度でもくりかえしたくなる川の旅
ページをめくっていくたびに、新しい景色が広がって、とても楽しい絵本です。
特に、夜のジャングルの景色は、変わった形の木や花の影からいろんな動物の目だけがぱちくりとこちらを見ています。
目を凝らしてみると、それが鳥だったりサルだったり、ヘビだったり。
かくれんぼの鬼になった気分でジャングルに潜む動物たちを探し始めると、時間のたつのを忘れます。
色とりどりの植物や動物、魚、車や建物の形まで、一つ一つが細かく丁寧に描かれていて、
あ、こんなところに!
という発見が尽きない楽しさがあります。
色の濃淡の、豊かな色彩。
たくさんの色が使われているのに、ゆったりした気持ちになれるのは色のトーンが落ち着いているからかもしれません。
川の流れに乗って、素敵な夢の世界へ私も流れていきたくなる、そんな作品です。
著者 マーク・マーティン
グラフィック・デザイナー、イラストレーター、絵本作家。”Monocle magazine” ”Wired magazine” “The Financial Review” “Capital magazine”などのメディア、オーストラリアの動画センター、各種イベントなどを舞台に制作活動を続ける。環境・自然・動物などを主題とするさくひん作りで知られ、2012年に刊行した”A forest”で絵本創作デビューした。この作品でオーストラリアの児童書新人イラストレーターに授与される2013年クライトン賞を受賞している。絵本 作品はほかに”Silent Observrer” “The Curious Explorer’s Illustrated Guide to Exotic Animals A-Z” “Max” がある(著者紹介より抜粋)
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