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【小説】すべての神様の十月~目の前にイケメンの神様が現れた?

すべての神様の十月


すべての神様の十月
小路幸也 著
PHP文芸文庫

小路幸也氏の短篇集。
一つ一つの作品が別々のようで実はそうではない。
小路幸也ワールドならではのやさしい空気に包まれ心地よさを堪能できる作品です。

ネタバレにならないように一つずつ紹介しますが、ばれちゃったらごめんなさい。

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幸せな死神

社会人3年目の榎本帆奈。彼女がバーで知り合ったイイ男は自分は「死神」だと名乗った。
死神の役目を果たすためにやってきた先出であった二人。
その後、帆奈が結婚し出産するまで二人つき合いは続く。
二人の会話のやりとりは、あまりにも普通過ぎて、彼が忌み嫌われる存在であることをわすれてしまう。
嫌われるどころか、親しみすら湧いてくる。

死神の役割とは?
死神が伝えようとしたことは?
そして帆奈と別れた死神の行方は?

貧乏神の災難

池内雅人、25歳。貧乏な家庭に育ち、幼いときから災難が付きまとってきた。
その背景には貧乏神の存在が。
でも実は、貧乏神がいなければ今の彼はなかった!?
貧乏神と福の神の会話から意外な事実が判明する。

疫病神が微笑む

看護師の奈緒子が勤めるのは、叔父の医師の個人病院。
ある日のこと、診察室に患者さんの後からいっしょに入ってきた女性がいた。
和服姿の美人な彼女。
でも、彼女の存在に気がついたのは叔父と奈緒子だけ。
彼女は疫病神だった。
どうして彼女が現れたのか、
疫病神が患者の子どもにとりついたわけは、深い人間愛に満ちたものだった。

動かない道祖神

工事現場で働くナカさんは道祖神。
ナカさんの同僚であるオレは神さまの使いの八咫烏(ヤタガラス)。
ある少女が持ち込んだ事件に巻き込まれた道路工事の動労者二人のお話。
労働者に扮した神さまなんてとても現実味のあるストーリー。
あるわけないけど、もしかしたらこんなことあるかも、あったら楽しいなぁ。

ひとりの九十九神

長く使われた道具には神さまが宿る、その神様のことを九十九神という。日本に古くから伝わる民間信仰の神。
モノを大切にする精神から生まれた思想なのかもしれない。
ここに登場する九十九神はとってもユニークなモノに宿っている。
うちにもいるかもしれない!
家の物置の中をごそごそ、古い物を探してみたくなる楽しいお話。

福の神の幸せ

福の神というタイトルからしあわせなストーリーを想像したら大間違い。
主人公の女性サカザキが生きる気力を失っていくのに、福の神の話っておかしくない?って思って読み進めると、なるほど、と納得の展開です。
人間と神様の違いについて語る福の神と死神の会話にジンとくる。

貧乏神や疫病神、道祖神などこれまでに紹介された神さまが会話のなかにちょこっと顔を出し、人とは生きるとはどういうことかをそれとなく教えてくれる。

御蒔け(おまけ)・迷う山の神

中学生の僕。
山登りが趣味だという担任の先生と友だちといっしょに、夏休みのある夜、山に登る。
そこで出会った少女は、前に見たことのある山の展望台の写真に写っていた子だった。
彼女はいったい誰なのか、その正体とは?
そして、僕はある人に出会うのだが、それがなんとあの彼だった!

冒頭の作品、死神のエピローグになっているこの作品。
期待を裏切らない結末にやった~!と拍手喝采。

感想

読み終わった後、タイトル『すべての神様の十月』の意味を考えてみた。
八百万の神が人間界に現れたらおもしろい、そんな発想から生まれたのかなと。
十月のことを「神無月」と言うのは知っている。
八百万の神が出雲大社へ出かけてしまって神さまがいなくなるからだ。多分、ここに出てくる神さまは出雲に行かずに人間界に来ちゃったんだな。
そう思うと次の10月が楽しみになってきた。

八百万の神の存在、日本古来の民間信仰がとても身近に感じられる作品でとてもおもしろかった。

小路幸也氏の作品に共通するほんわかとしたやさしい空気が、この一冊、全編にもゆったりと流れている。
読み終わってしまうのが惜しくて、読むのは1日一編だけと決めた。
連日この本を読む時間がくるのが待ち遠しく、とても心地よかった。

お気に入りの連続ドラマを見ている気分。
続きを早く知りたいけど、明日まで我慢。
そのわくわくを楽しめた。

やさしい言葉で語りかける文体は、疲れた心に癒しをくれる。
ほんわかとあったかい気持ちを届けてくれる最高の一冊。

★御蒔け(おまけ)・迷う山の神は文庫版への書下ろし短編です。


小路幸也(しょうじゆきや)
1961年、北海道生まれ。広告制作会社勤務などを経て2002年に『空を見上げる古い歌を口ずさむpull-town fiction』で第29回メフィスト賞を受賞して翌年デビュー。あたたかい筆致とやさしい目線で描かれた作品は、ミステリ、青春小説、家族小説など多岐にわたる。代表作「東京バンドワゴン」シリーズ(集英社)をはじめ『花咲小路三丁目のナイト』(ポプラ社)、『スローバラード』(実業之日本社)、『小説家の姉と』(宝島社)、『ストレンジャー・イン・パラダイス』(中央公論新社)、『ロング・ロング・ホリディ』『東京カウガール』(以上、PHP研究所)など著書多数。

本書著者紹介より
Bitly

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