『ちび竜』
工藤直子・文
あべ弘士・絵
童心社
これは、うまれたばかりの小さな竜が、ゆっくりと大きくなっていく様子を描いた絵本です。
最初は水のつぶほどだったちび竜がボウフラと同じくらい大きくなり
ボウフラからテントウムシに、テントウムシからとんぼ、池のフナ、そして、もぐら、ウサギ、子馬、鹿、くじら。
いろんな場所で、いろんな生き物との出会い、その相手と同じ大きさに変化していくちび竜。
見た目だけでなく心もゆっくりと大きく育ちます。
のびのびとした線から竜の力強いエネルギーが伝わってくるようです。
ちび竜は、自分が今いる場所で、そこにある環境のなかで、精いっぱい生きています。
トンボには飛び方を、フナには水のひびきの伝わり方を、モグラには土のにおいをかぎわけることを教わります。
ほかにも空のこと、風のこと、水のこと、土のこと…
たくさんの出会いの中で、多くのことを学び、知らなかったことを知り、できなかったことができるようになる。
心も体もでっかくなっていくちび竜の姿は、頼もしく、清々しくもあります。
最初はタンポポの種につかまって空に舞い上がるだけでも目を回していた子が、最後には壮大な世界を包みこむほどに大きく強くなっていく姿。
そんなちび竜の成長を讃え、歌いあげるような言葉にも引き込まれます。
そして、たくさんの羽ばたく鳥(鳩かな?)の姿、そこに投げかけられるメッセージが胸に響きました。
読み終わったあと、心の中に小さな明るい灯がポッとともりました。
竜のうろこの一枚一枚までとても細かく描かれた版画(だと思います)は、白と黒が基調。繊細さと強さを合わせた不思議な力が伝わってきます。
時にやさしく、時に大声で叫ぶようにあふれてくる言葉は、大人になるにつれて胸の片隅においやってしまっていた小さな希望の卵を「ポン!」と割ってくれるような気がします。
このブログが、いつか、だれかの胸の中に小さな火をともすことができるよう、続けていきたいと思います。
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