『ライスボールとみそ蔵と』
作・横田 明子
絵・堀越 文雄
絵本塾出版
小学4年生のジュンの家は、お父さんもおじいちゃんもみそ屋を営んできました。
家には古い蔵があって、むかしからそこでみそが作られてきました。
ジュンのお父さんは、みそ造りのことをジュンに知ってほしい、と思っているのですが、ジュンはちっとも興味がありません。
古い家にはうんざりしていたのです。
でも、同級生のユキちゃんは、ジュンのことをうらやましく思っていました。
彼女は、アメリカから帰ってきた女の子で、古い日本の建物や、日本の伝統文化にとても興味を持っていたのです。
ある日、ユキちゃんはジュンに、みそ蔵を見せてほしい、と言い出しました。
そこから、いままでみそには全く興味がなかったジュンの意識が変わり始めます。
当たり前に過ごしてきた日常のなかに、実は大切なモノがあった。
ユキちゃんと出会ったことで、ジュンの毎日に変化が起こり始めます。
ストーリー
主人公のジュンは小学4年生。
幼稚園の頃から友だちのタロウは誰とでも気やすく話せるひょうきん者。
ジュンはその反対で、人と話すときはモジモジしてしまう恥ずかしがり屋です。
ジュンの家はみそ屋で、お父さんはおじいちゃんからみそ屋を継いでいます。
そして、ジュンにもみそに興味を持ってほしいと思っています。
さらに、世界に目を向け、みそ蔵を外国人に紹介するツアーを考えたり、子どもたちにみそに興味を持ってもらうにはどうすればいいか、と、みそのことをいろいろと考えているのです。
ところが、肝心のジュンは、みそ屋にもみそにも全く興味なし。
それどころか、古い家にうんざりしている様子です。
同じクラスのユキちゃんは、ロンドンから帰国してきた女の子で、日本の古民家やアンティークが大好き。
だから、ジュンの家に古い蔵があると知って、興味しんしんです。
そんなユキちゃんが、ジュンの家のみそ蔵を見たい、と言い出しました。
ジュンは驚きましたが、ユキちゃんと話をしたり、ユキちゃんの家に呼ばれてみそを使った料理をごちそうになったりして、みそについてあれこれ考えたり、みそのおいしさを改めて知ることになるのです。
そして、自分の家にあるみそ蔵の価値に気づいたジュン。
彼は、
もっとたくさんの人にみそのおいしさを知ってほしい、
古いみそ蔵を見てほしい、
と思い始めます。
そして、クラスのみんなを巻き込んで開催した”みそレストラン”は、大成功をおさめたのです。
古いみそ蔵のこと
この物語の舞台の古いみそ蔵は、作者の横田明子さんのお母さんの実家がモデルになっています。
「蔵の壁には、1センチ四方に何億個ものコウジ菌がすみついている」
というセリフも、横田さんが子どもの頃に何度も聞かされていた言葉。
それをきいた横田さんは、
蔵には神様がいる
と思い、その経験が軸となってこの作品が生まれました。
ユキちゃんが蔵にはいって感じた「においのバリア」「あまいやわらかい不思議なにおい」とおなじことを、子どもの横田さんも感じていたのでしょう。
古い建物、家やお寺には独特の空気が流れているのを感じます。
特に子どもの頃の印象は、大人になってもふとした瞬間に思い出し、とても懐かしくなるものです。
古いものに触れる機会が少なくなっている現在ですが、もし、チャンスがあれば、お寺や神社、古い民家や納屋の中に足を踏み入れてみてください。
ジュンやユキちゃんが感じた蔵の空気、ふだん感じたことのない空気を感じられるかもしれませんよ。
感想
長い年月を経た道具は「つくも神」になるという話を聞いたことがあります。
物語の終盤で、ジュンが
蔵の神さま、見てください。ここはぼくたちのみそレストランです
と呼びかける場面がありました。
きっとこの蔵にいるつくも神が喜んでいるだろうな、なんて思いながら読みました。
この物語で注目したいのは、ジュンの心の変化です。
みそ屋の子どもに生まれたことが嫌だったジュンが、ユキちゃんが良いところをたくさん教えてくれたおかげで、みそ屋に生まれたことを自慢できる、自分の境遇=みそ屋の子、に誇りを持てるようになりました。
自信を持てるようになったことで、人と話すときにモジモジすることもなくなり、自分からアイデアをだしたり外へ向けて自分の考えを発信できるようになっていきます。
自分なんて、ありきたりで特別なことは何もない、
と思っている人も、外の誰かと接する中で、その人から言われた何気ないひとことで、新たな何かを見つけられるかもしれません。
いろんな人に会って、いろんな話をすることは、とても貴重な体験です。
自分の世界が広がれば、今まで気が付かなかったものが自分の中にあることを発見できるかもしれません。
ジュンにとってのユキちゃんのように、あなたにとっての誰かが、あなたが見過ごしてきた大切なものを教えてくれるかもしれませんよ。
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