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魔女の宅急便の著者、角野栄子さんが戦争への思いをつづった『靴屋のタスケさん』

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靴屋のタスケさん

角野栄子・作
森 環・絵
偕成社

2022年、8月15日、戦後77年を迎えました。
この本には、戦時中、小学1年生だったある女の子の思い出が描かれています。
戦争がそれほど激しくなる前、少女と靴職人のタスケさんのほのぼのとしたふれあいが微笑ましい。
その後、戦争が激しくなり、戦火をくぐりぬけ終戦を迎えた後のことが語られています。
物語の終盤、15歳になった少女が、ふとタスケさんを思い出すシーンがあるのです。
それが胸にズンとくる場面でした。

この本の作者は、『魔女の宅急便』でおなじみの角野栄子さん。
彼女は、1935年生まれ。
主人公の女の子に、幼い彼女の姿が重なって見えました。

あの日、あの時を思い出したときの15歳になった少女の表情は、懐かしさと寂しさで切なく、印象的です。
戦争の悲惨さを知らない子どもたちも、女の子の日常なら身近に感じることができるはず。
そして、普通の女の子の日常を奪った戦争について思いを馳せてほしいと思います。

ストーリー

1942年、小学1年生のわたしは、表通りにできたばかりの靴屋さんに興味津々。
毎日、お店のガラスに顔をくっつけて中をのぞいていた。
そんなある日、いつものように店の中をのぞいていた少女に


中に入っておいで
と店の奥から声が聞こえてきた。


声の主はタスケさんという青年。
店の主だ。
目が悪くて兵隊になれないのだと話す彼。
評判の靴屋でしっかり修業を積んだ彼の腕前は一流だ。
戦争がはじまると、靴を新調する人がいなくなり、靴の修理ばかりに追われる日々。
そんなタスケさんに赤い靴を作ってほしいと注文が入る。
物資の少ない中、仲良しの女の子のために、タスケさんは遠い所へ材料の仕入れに旅立ち、お目当ての皮を手に戻ってきた。
やわらかい革で丁寧に作られたかわいらしい赤い靴。
女の子のうれしそうな笑顔
タスケさんの誇らしげな笑顔
手を取って踊りだす二人はとても楽しそうだ。

そんなある日、タスケさんが店を閉めるときがやってきた。
兵隊になるから。

タスケさんは
今は、目が悪くても、お国のために役に立つことがあるらしい 
と女の子に告げて郷里に帰っていった。

そして戦争が激しくなり

女の子の家も
タスケさんの店も
ちいさくなっても大切にとっておいた赤い靴も
みんな焼けてなくなってしまった。

焼けた街に家がたちはじめたころ、女の子はタスケさんのことも赤い靴のことも忘れていった。

15歳の秋、学校の帰り道、彼女は街にできた新しい電気屋さんを見つける。
そのとき、突然思い出がよみがえってきた。
そこには、かつて、あの靴屋があったこと、まんまるメガネのタスケさんのこと、ぱっちんどめの赤い靴のこと
あのころの懐かしい光景が目の前に広がった

それは、とてもあたたかくて楽しい思い出の光景のはずだった
でも、彼女は、なにかにぎゅっと胸をしめつけられていた

少女とタスケさんがとても明るく描かれた最後のページ。
楽しそうな二人の笑顔に、私の胸は、少女と同じようにぎゅっとしめつけられた。

感想

当たり前の毎日が戦争によって奪われる現実。
それをやさしい言葉で淡々とつづられた作品。
恐ろしい描写や表現は出てきません。
前半では、女の子とタスケさんのやりとりが、とても楽しい。
戦争中でも、楽しい日々もあったんだなあ、
と微笑ましい。
しかし、戦争が激しくなり、終戦を迎え、やがて再び日常が戻ってきたとき、あらためて戦争の悲しさを知ることになります。
奪われたものを思い出した彼女の表情を見たとき
なぜ、何もしていない少女が、こんな思いをしなければいけないのか、と
切なく、悲しく、やり場のない怒りを覚えました。

戦争を体験した著者の言葉は、戦争を知らない私たちに、語りかけてくれます

戦争が奪ったもの
ふつうの日々が失われてしまうことへのやり場のない怒りと悲しみ

やさしい、けれど強いメッセージが胸に響きました。

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